Raspberry Pi 5 と Hailo 10H で実用的なローカル生成AIは可能なのか?

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背景

現在発売されている Raspberry Pi AI Kit は Hailo-8 が採用されています。

エッジデバイスでの生成AI実行に注目が集まる中、Hailo Technologies の新しいAIアクセラレータ「Hailo-10H」がRaspberry Pi 5での利用可能な見込みです。実際の性能と制限を踏まえながら、医療分野での現実的な活用方法について考えてみます。

Hailo-10H M.2 Generative AI Acceleration Module

Hailo-8 AI Accelerator

Hailo 10Hの概要と性能限界

Hailo-10H は、エッジデバイス向けに設計された最新のAIアクセラレータです。主な仕様と、それに伴う制限は以下の通りです。

  • 演算性能:40 TOPS(INT4)
    • INT4量子化による精度への影響を考慮する必要あり
    • 大規模言語モデルの実行には制限あり
  • メモリ:4GB/8GB LPDDR4
    • 大規模な医療特化型モデルの展開は困難
    • 処理できる文書の長さに制限あり
  • PCIe Gen-3.0 x4インターフェース
    • Raspberry Pi 5との相性は良好
    • データ転送速度は十分確保可能
  • 消費電力:3.5W(標準時)
    • 24時間運用にも対応可能
    • 発熱対策は必要最小限

Hailo-10H と Hailo-8 ( Raspberry Pi AI Kit ) の比較

項目Hailo 10HRaspberry Pi AI Kit影響
演算性能40 TOPS (INT4)126 TOPSHailo 10Hは低精度でより高い演算性能
フォームファクターM.2 Key M (2280)M.2 Key M (2242)
メモリ4GB/8GB LPDDR4内蔵メモリのみHailo 10Hは大きなモデルの展開が可能
インターフェースPCIe Gen-3.0 x4PCIe Gen-2.0Hailo 10Hはデータ転送が高速

Raspberry Pi HAT+ 仕様(PDF)

実現可能な処理の違い

以下、Claude 3.5 Sonnet で医療向けの活用見込んだ比較をしてもらいました。

Hailo 10Hでのみ現実的に実行可能な処理

  1. より大規模な言語モデルの実行

    • Phi-2(2.7B)やRWKV-4などの比較的大きなモデルの量子化版を実行可能
    • 8GBのメモリにより、モデルの完全な展開が可能
  2. 長文処理

    • より長いコンテキストウィンドウでの処理が可能
    • 診療録全体を一度に処理できる可能性が高い
  3. 複数モデルの同時実行

    • 異なる用途の複数のモデルを同時にメモリに保持可能
    • 例:テキスト要約と固有表現抽出を別モデルで並行処理

Hailo 8でも実行可能な処理

  1. 基本的なテキスト分類

    • 単純な文書分類タスク
    • キーワードベースの情報抽出
  2. 短文生成

    • 定型文の生成
    • 簡単な要約タスク
  3. 構造化データの処理

    • 定型フォーマットのデータ変換
    • 単純なパターンマッチング

Hailo 8では困難な処理

  1. 複雑な文脈理解を要する処理

    • 長期的な文脈を考慮した要約生成
    • 複雑な医学用語の関係性の理解
  2. リアルタイムの対話処理

    • メモリ制限により、文脈の保持が困難
    • 応答生成に時間がかかる
  3. 高度な推論を要する処理

    • 複数の文書間の関係性の理解
    • 暗黙的な情報の推論

医療機関での現実的な活用方法

診療録サマリ作成支援システム

最も実現可能性の高い活用方法として、診療録サマリの作成支援が挙げられます。軽量な言語モデル(Phi-2やRWKV-4)を用いることで基本的な要約機能を実現できる見込みです。

具体的な支援内容

  • 日々の診療記録からの重要イベント抽出
  • 検査値や処方内容の時系列的な整理
  • 定型的な文章の自動生成

注意点

  • 生成された内容は必ず医療従事者による確認が必要
  • 複雑な医学的判断を要する部分は人間が補完
  • 長文の処理には時間がかかる可能性あり

がん登録データ作成支援

がん登録データ等の作成支援については、限定的な範囲での実現が可能です。ただし構造化されやすいデータの抽出から段階的に導入する必要があります。

実現可能な機能

  • 病理診断レポートからの基本情報抽出
  • TNM分類の候補提示
  • 治療内容の分類と整理

現時点での制限事項

  • 専門用語の完全な理解には制限あり
  • 複雑な症例の判断は人間による実施が必要
  • 抽出された情報は必ずダブルチェックが必要

学会・研究用データ収集支援

研究データの収集支援については、基本的なデータ抽出と整理の補助ツールとしての利用が現実的です。

可能な処理

  • 基本的な診療情報の構造化
  • 定型フォーマットへの変換補助
  • 単純な条件に基づく症例抽出

制限事項

  • 複雑な包含/除外基準の判断は困難
  • 大量データの処理には時間を要する
  • 特殊な条件の理解には限界あり

実運用に向けた推奨アプローチ

段階的な導入

  1. フェーズ1:基本機能の確立

    • 単純な文書要約機能の実装
    • 定型的なデータ抽出の確認
    • 運用フローの確立
  2. フェーズ2:機能の拡張

    • 専門用語の理解度向上
    • より複雑なデータ抽出の実装
    • エラー検出機能の強化
  3. フェーズ3:本格運用

    • 複数のユースケースへの対応
    • 処理の自動化範囲の拡大
    • 継続的な精度向上

安全な運用のための施策

セキュリティと品質管理の観点から、以下の対策が必要です

  • 全ての出力に対する人間による確認プロセスの確立
  • アクセス権限の厳密な管理
  • 操作ログの保管と定期的な監査
  • データのバックアップ体制の整備
  • システム障害時の代替手段の確保

まとめ

Hailo-10H と Raspberry Pi 5 の組み合わせは医療機関における生成AI活用の安価な第一歩として有望です。完全なオンプレミス環境での運用が可能な点は、個人情報保護の観点から大きな利点となります。ただし現時点での技術的制限を理解し、人間による適切な監督のもとでの運用が不可欠です。生成AIはあくまでも医療従事者の業務を支援するツールとして位置づけ、診断・判断は医師が行う必要があります。今後、モデルの最適化や運用ノウハウの蓄積により、活用できる範囲は徐々に広がっていくことが期待されます。その過程では、現場のフィードバックを積極的に取り入れながら、安全性と有用性のバランスを保った展開を進めることが重要です。

Hailo-10Hの発表が2024年4月なので、そろそろ発売され欲しいですね。CES 2025ではデモもされていたっぽいので、期待が膨らみますね!

Hailo AI Edge Devices による AI ブログおよびエッジ コンピューティング ブログ > CES 2025: The Year Edge AI Took Over