食道がんT分類 浸潤部位一覧
背景
食道がんの病期分類における T3r、T3br、T4a、T4b の浸潤部位について、日本語、英語、略称を表にしてまとめておきます。取扱規約とカルテ記載を照らし合わせるときによく使っています。
ただし、必ず所属機関の規定や学会等のガイドラインをご確認の上、補助的に参照してください。
T3r(隣接構造物への浸潤あるが切除可能)
T3の範囲内で、隣接する構造物への浸潤があるものの、完全切除が可能な状態を指します。縦隔胸膜や壁側胸膜などが含まれます。
No. | 日本語 | 英語 | 略称 |
---|---|---|---|
1 | 縦隔胸膜 | Mediastinal pleura | MP, MPl |
2 | 壁側胸膜 | Parietal pleura | PP, PPl |
3 | 肺靭帯 | Pulmonary ligament | PL, PuL |
4 | 横隔膜脚 | Diaphragmatic crus | DC, DiC |
5 | 心膜の外層 | Outer pericardial layer | OPL |
6 | 腹膜(限局性) | Peritoneum (localized) | Pe-loc, PM(L) |
7 | 壁側腹膜 | Parietal peritoneum | PPe, PPM |
T3br(隣接構造物への浸潤あるが切除境界)
T3の範囲で、切除可能性が境界領域にある浸潤です。奇静脈や神経系(迷走神経、反回神経など)への浸潤が該当します。
No. | 日本語 | 英語 | 略称 |
---|---|---|---|
1 | 奇静脈 | Azygos vein | AV, AzV |
2 | 胸腺 | Thymus | Thy, THY |
3 | 迷走神経 | Vagus nerve | VN, CN X |
4 | 反回神経 | Recurrent laryngeal nerve | RLN |
5 | 交感神経幹 | Sympathetic trunk | ST, SyT |
6 | 胸管(限局性) | Thoracic duct (localized) | TD-loc, ThD(L) |
7 | 気管支動脈 | Bronchial artery | BA, BrA |
8 | 横隔神経 | Phrenic nerve | PN, PhN |
9 | 小網 | Lesser omentum | LO, LOm |
10 | 大網(限局性) | Greater omentum (localized) | GO-loc, GOm(L) |
T4a(切除可能な隣接臓器浸潤)
手術で切除可能と判断される隣接臓器への浸潤です。胸膜、心膜、横隔膜などの比較的境界が明確で、腫瘍と一括切除が可能な部位が含まれます。
No. | 日本語 | 英語 | 略称 |
---|---|---|---|
1 | 胸膜 | Pleura | Pl, PLE |
2 | 心膜 | Pericardium | PC, PE |
3 | 横隔膜 | Diaphragm | Di, DPH |
4 | 腹膜 | Peritoneum | Pe, PM |
5 | 縦隔脂肪組織 | Mediastinal adipose tissue | MAT |
6 | 横行結腸 | Transverse colon | TC, T-Col |
7 | 肺(限局性) | Lung (localized) | Lu-loc, Lu(L) |
8 | 肝臓(限局性) | Liver (localized) | Li-loc, Li(L), H(L) |
9 | 膵臓(限局性) | Pancreas (localized) | Pa-loc, Pa(L) |
T4b(切除不能な隣接臓器浸潤)
外科的切除が困難または不可能と判断される重要臓器への浸潤です。大動脈、気管、心臓など、切除すると生命に関わる重要臓器や、広範囲に及ぶ浸潤が該当します。
No. | 日本語 | 英語 | 略称 |
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1 | 胸部大動脈 | Thoracic aorta | TA, TAo |
2 | 気管 | Trachea | Tr, TRA |
3 | 主気管支 | Main bronchus | MB, MBr |
4 | 肺(広範囲) | Lung (extensive) | Lu-ext, Lu(E) |
5 | 心臓 | Heart | He, HT |
6 | 椎体 | Vertebral body | VB |
7 | 胸管 | Thoracic duct | TD, ThD |
8 | 下大静脈 | Inferior vena cava | IVC |
9 | 肝臓(広範囲) | Liver (extensive) | Li-ext, Li(E), H(E) |
10 | 脾臓 | Spleen | Sp, SPL |
11 | 腹部大動脈 | Abdominal aorta | AA, AbAo |
12 | 腹腔動脈 | Celiac artery | CA, CeA |
13 | 総肝動脈 | Common hepatic artery | CHA |
14 | 脾動脈 | Splenic artery | SA, SpA |
15 | 左胃動脈 | Left gastric artery | LGA |
16 | 腎臓 | Kidney | Ki, KID |
17 | 膵臓(広範囲) | Pancreas (extensive) | Pa-ext, Pa(E) |
18 | 十二指腸 | Duodenum | Du, DUO |
19 | 腹壁 | Abdominal wall | AW, AbW |
20 | その他の重要臓器 | Other vital organs | OVO |
注意事項
- 略称は複数の表記が存在する場合があります。学会や施設、国際的な記載方法によって異なることがあります。
- 日本食道学会、UICCなどで使用される略称を併記しています。
- 特に「限局性」と「広範囲」を示す略語は、loc/L や ext/E などが使用されます。
- 最新のがん登録システムや所属施設の規定に従って適切な略称を選択してください。
- 肝臓は国際的には「Liver (Li)」と「Hepatic (H)」の両方の略称が使用されることがあります。
腹膜が AD と略される場合
腹膜(Peritoneum)の略称として AD が使われることには、実は特殊な背景があります。AD は「腹膜(Peritoneum / PM / Pe)」そのものの略称ではなく、「腹腔内播種(Abdominal Dissemination)」または「腹膜播種(Abdominal Dissemination / Peritoneal Dissemination)」を意味する略称です。 これは単なる臓器の浸潤(T4)とは少し異なる概念で、以下のような状況を指します。
- 腫瘍細胞が腹膜表面に散布され、複数箇所に小結節を形成している状態
- 原発巣から離れた腹膜に転移巣が形成されている状態
- 腹水中に腫瘍細胞が確認される状態(腹膜播種性転移)
食道がんの場合、特に下部食道癌や胃食道接合部癌では、進行すると腹膜播種を起こすことがあります。この場合、単なる T4a の腹膜浸潤(局所的な腹膜への直接浸潤)とは区別され、多くの場合 M1(遠隔転移)カテゴリーに分類されます。 がん登録において、この「AD」の記載がある場合は単なる隣接臓器としての腹膜浸潤(T4a)ではなく、腹膜播種(Peritoneal dissemination)があることを示している可能性が高いです。
このため、T分類だけでなく、M分類(遠隔転移)の観点からも評価が必要になります。日本の食道癌取扱い規約や国際的なTNM分類システムでは、腹膜播種は一般的にM1(またはM1b)として扱われることが多いです。 がん登録の際にはこの違いを明確に区別することが重要で、「T4a-Pe(腹膜への直接浸潤)」と「M1-AD(腹膜播種)」は予後や治療方針が大きく異なります。施設によって略称の使い方に若干の違いがある可能性もあるため、登録前に所属機関の規定を確認されることをお勧めします。